奈良地方裁判所 平成9年(ヨ)35号 決定 1997年9月22日
債権者
甲野一郎
右訴訟代理人弁護士
井上二郎
同
中島光孝
債務者
東英産業株式会社
右代表者代表取締役
寺本英樹
右訴訟代理人弁護士
渡辺敏泰
主文
一 債権者の申立てを却下する。
二 申立費用は債権者の負担とする。
理由の要旨
第一 事案の概要
一 争いのない事実等
1 債務者は、事務用機器、電気通信機器等の製造、販売を主要な事業とする会社であり、債権者は、昭和六二年六月にそれまで勤めていた株式会社ざくろを退職し、債務者の関連会社である株式会社東英製作所(以下「東英製作所」という。)に採用された。債権者の最終学歴は中学校卒業であるが、右採用時に東英製作所に提出された債権者の履歴書(甲三四、乙二、以下「本件履歴書」という。)には、昭和三七年三月宮崎県立大淀高校卒業との記載がある。東英製作所は、平成二年三月三一日解散し、債務者がその事業及び従業員全員を引き継ぎ、債権者も、平成二年四月一日、債務者に採用された。
2 債権者は、債務者入社後、ブラシ製造担当作業を行っていたが、平成三年四月一日購買部外注課に配置換えとなり、以後、平成六年六月一日に営業部外注課に、平成七年六月一日に生産管理部外注課に配置換えとなったものの、継続して外注管理業務を担当していた。
3 その間、債権者は、平成四年三月、自ら中心となって東英産業労働組合を結成し全国一般労働組合奈良地方本部に加盟し、執行委員長に就任したものの、数日のうちに数名を除き組合員が脱退して事実上組合は実体を失い消滅することになった。その後、債権者は、平成七年七月、個人で全国一般労働組合大阪地方本部大阪一般合同労働組合(以下「組合」という。)に加入し、組合は東英産業支部を結成し、債権者がその支部長に就任した。組合は、債務者に対し、同年九月二二日付け書面で労働組合加盟通知及び団体交渉申込み等を行った(甲八ないし一〇)。
4 債務者は、平成八年一〇月三一日、食堂内に辞令(乙一六)を掲示し、同年一一月一日より組織の改変をし、同年一一月二九日までに業務の引き継ぎを行い、机の配置等の最終移動日を同月三〇日とし、債権者に対し製造部スリッター担当への異動を命じた(以下「本件配転命令」という。)。これに対し、債権者が、本件配転命令は組合との事前協議を経ていない等として、同年一二月一日以降も新就業場所である本社工場一階スリッター作業場での就労を拒否し、従前の就業場所である本社一階外注管理課事務所での勤務を続けたため、債務者は、同年三日付けの書面辞令(甲一八)で債権者に対し、製造部スリッター担当への異動及び新就労場所での勤務を命じたが、債権者はこれに従わなかった。債権者の従前の就労場所である本社一階事務所を含む工場改造工事が平成九年一月七日から着手されたため(乙三九の二、四〇)、債権者は、同日、新就労場所に移動したものの、その後も、本件配転命令は認めず同僚の手伝いとしてスリッター作業のみに従事する態度をとり続けた。そのため、債務者は、同月二九日付け書面辞令(甲二二)で、債権者に対し、製造部スリッター担当業務に加え、梱包業務、寸法切業務、機械巻業務及び抵抗値検査業務を本務として行うことを命じ、命令に従わないときは相当な処分をすることを通知した。これに対し、債権者は、同年二月一八日、製造部主任田中健三に対し、「この会社を徹底的にいってもうてやろうと思っているのや、もう、もう俺絶対に許さん、ほんまに、この斉藤君、江口君も許さんぞ、俺が死ぬかあいつらが死ぬかどっちかやらにゃあしゃあないと思っとる。」などと発言した(乙一七の一及び二)。
5 その間、組合は、平成八年一一月一二日開催された団体交渉の席上、債務者に対し本件配転命令について質し、同年一二月六日付け書面(甲二〇)で、配転等の組合との事前協議協定、三六協定等において組合との協定をする旨の協定又は債権者の外注管理業務担当等の条件を提示したが、債務者は、同年一〇月三一日の説明が正式の辞令だとして話し合いに応じず、組合は、平成九年一月八日、奈良県地方労働委員会にあっせんを申請したが、債務者はこれを辞退した。さらに、組合は、債務者の同年一月二九日付け書面辞令(甲二二)に対し、同年二月三日付け抗議並びに通知書(甲二三)を債務者に送付し、同年三月四日付け団体交渉申込書(甲二五)で、債権者の配置転換に関する件等を議題に団体交渉を申し込んだが、債務者は、賃金引き上げの件のみ議題とする旨回答した。その後組合は、同月一〇日、大阪地方労働委員会に不当労働行為救済申立てを行い、同委員会の第一回調査期日が同月二五日に開かれ、次回期日が同年四月二二日とされた。
6 債務者は、平成九年四月三日大阪弁護士会受付の照会書(乙三二の一)により、宮崎県立宮崎工業高等学校に債権者の学歴を照会し、その回答(乙三二の二)を得た後、同月一六日付けで、①学歴詐称、②債務者専属運送業者大日本運輸株式会社(以下「大日本運輸」という。)運転手奥村暢三に対する私物運送の職権濫用行為等、③債務者の下請人である有限会社サンキョウ工業、NAKAJIMAこと中嶋京子及び小川製作所こと小川泰平に対する配車等外注管理業務上の非違行為、④同じ職場のパートタイマー二名に対する暴行又はセクシャルハラスメント行為等、⑤本件配転命令及び業務上の指揮命令の拒否及び田中等に対する脅迫行為を理由とし、就業規則(乙二九の一)四四条一号、八号、一一号に該当するとして、就業規則四五条四号により債権者を懲戒解雇する意思表示をした(甲二、三の一及び二、四の一及び二、以下「本件解雇」という。)。これに対し、債権者が、従業員としての地位保全と賃金の仮払いを求めて本件仮処分の申立てをしたものである。
二 主要な争点
本件の主要な争点は、①本件解雇事由の存否及び②本件解雇の有効性である。
第二 主要な争点に対する判断
一 本件解雇事由の存否について
1 学歴詐称
債権者の元妻西井千雪作成の報告書(乙二〇、四七、四九、六二)、債務者常務取締役江口豊作成の報告書(乙一八の二、四六)、株式会社ざくろに提出された債権者の履歴書(乙二一)及び債権者自筆の履歴書(甲三五)によれば、本件履歴書は、債権者の意思に基づき西井が代筆して作成され、東英製作所に提出されたことが認められる。そして、債務者は、東英製作所の従業員全員を引き継ぎ採用したもので、債権者の東英製作所に対する学歴詐称の瑕疵は債務者に引き継がれたというべきである。
この点債権者は、本件履歴書に関与したことはない旨陳述しているが、右関係各証拠、特に、西井が、債権者の学歴や資格等婚姻前のことがらについてその細部まで知っているとは考えにくく、また、西井が債権者に無断で本件履歴書を作成する必要性もなく、西井が債権者に確認せずに作成したというのは極めて不自然なこと、東英製作所以前に勤務していた株式会社ざくろに提出された履歴書は債権者自筆のものと認められるところ、右履歴書には最終学歴として大淀高校卒業と記載されていること及び債権者が、西井に対しても、高校卒業と偽っていたこと等に照らし、債権者の陳述内容は信用することができない。
2 奥村に対する職権濫用行為等
江口作成の報告書(乙四、四五)及び債務者総務人事部長斉藤信男作成の報告書(乙四四)によれば、平成六年七月から八月にかけて、債権者が奥村に依頼して商店から私用のジュース等を運ばせたこと、四回目には奥村が私用でトラックを動かされるのは困ると述べて債権者の依頼を拒否したこと、同年一〇月ころ、債権者に言われ、奥村が債務者の業務とは無関係の私人宅に贈答品らしき物品を届けたこと、同年一一月初旬ころ、債権者の指示で奥村が中嶋の所へ下請製品の引き取りに行ったところ、既に別人が引き取っていたこと、同月下旬ころ、奥村が有限会社サンキョウ工業に納品した際、同社代表取締役野里慶一から完成品の引き取りを依頼され、これを積んで債務者の所に戻ったところ、債権者から「いらん物積んでくるな、相手の言うことばかり聞いて俺の了解をとらんかい。」等と文句を言われたこと、このようなことから奥村は、債権者と一緒に仕事をできないと大日本運輸東大阪営業所所長西山貴祥に相談し、平成七年四月四日、西山らが債務者を訪れ、江口に対し苦情を申し入れ、派遣運転手を奥村から安田建一に変える旨伝えたことが認められる。
債権者は、右各事実を否定し、あるいは悪意はなかった旨陳述しているが、右各証拠がことさら事実を作出して作成されたとは考えられず、その信用性を否定することはできない。また、中嶋からの引き取りが単なる入れ違いで債権者に悪意がなかったとしても、それは債権者のミスであり、債権者に責任があることには変わりがない。このような点からは、結局、債権者の不適切な対応により、奥村との関係を悪化させ、大日本運輸から債務者に苦情が申し立てられたことは否定できないところである。
3 下請人に対する配車等外注管理業務上の非違行為
(一) 有限会社サンキョウ工業
野里作成の申入書等(乙五の一ないし三、四三の一)によれば、平成五年三月、二回にわたり、債権者から大日本運輸が忙しいのでサンキョウ工業の車で納品するように言われ、野里が納品のため債務者の所に赴いたところ、大日本運輸の運転手二名が、朝から暇なので段ボールの組立作業を手伝っている旨答えたこと、平成六年四月一二日ころ、有限会社サンキョウ工業に配車されたトラックに積載の余裕がありながら債権者に他の会社で積むことを理由として積載を止められ、同月一九日には、配車されたトラックに積載することを債権者から許可されたもののトラックに積載スペースがなく、結局製品を一か月近くにわたり納品できなかったこと、このようなことがあり、野里が、同年六月一日付け書面(乙五の一)で、債務者に苦情と債権者に対する指導を申し入れたこと、その後、同年七月から一〇月にかけて、有限会社サンキョウ工業に対し週間予定表に従った配車がされず、同年一一月二日、野里が債権者と電話で話したところ、債権者から、予定表は適当に書いているだけでいつ配車するかはその時にならないと分からない旨言われ、野里が、同月七日付け書面(乙五の二)で債務者に対し、苦情と改善を申し入れたことが認められる。
(二) NAKAJIMAこと中嶋京子
中嶋作成の申入書等(乙六の一及び二、四三の二)及び債務者取締役製造部長長田吉弘作成の報告書(乙一一の一)によれば、平成七年三月六日、中嶋が債権者に納品のため配車を依頼したところ、債権者からトラックが空いていないとの返事を受けたが、後日大日本運輸運転手築地秀晃から、当日は昼から引き取りの仕事がなく会社で待機していた旨聞いたこと、同年九月五日、債権者から至急品としてシャコーフィルターバック二〇ケースを明日中に仕上げることを指示され、翌六日中に仕上げて待っていたが引き取りに来ないため、電話で江口に連絡すると、当該製品は同月一四日納期で同月六日中に特に急いで作る必要がないものであることが判明したこと、同年一〇月一六日に、債権者から製品の引き取りに行く旨の連絡があったものの来ないため、中嶋が債権者に電話したところ、債権者から「今日は行けなくなった。明日引き取りに行くから。」と言われ、中嶋が、引き取りに来ることができないときは連絡してくれるように依頼したのに対し、債権者から「こちらの都合もあるんや。」と文句を言われ、不快感を味わったこと、これらのことで、中嶋が、同年一一月七日付けの書面(乙六の一)で江口に対し苦情を申し入れ、債権者に対する指導を依頼したことが認められる。
(三) 小川製作所こと小川泰平
小川作成の申入書等(乙七の一及び二、四三の三)及び長田作成の報告書(乙一一の一)によれば、平成七年八月一七日午後四時ころ、債権者が電話で小川に対し、帯電グリット三〇〇〇本を明日中に仕上げるように加工依頼し、小川が債務者営業部御堂展彦に確認の電話をしたところ、その五分位後に債権者から電話があり、「俺が言っているんや、言うこと聞けんのか、持ってこいと言ったら持ってこんか。」等と言われたこと、小川からの苦情を聞いた長田が営業に納期を確認したところ、同月一八日中に作る必要はなかったこと、この件について、小川が同日付けの書面(乙七の一)で債務者に苦情を申し入れ、債権者に対する注意を依頼したことが認められる。
債権者は、これらの点についてそれぞれ否定し、弁解しているものの、右関係各証拠はその具体的な内容、作成時期等に照らし十分信用できるものであって、債権者の陳述を信用することはできず、悪意を抱いていたかはともかくとして、債権者の不適切な対応により下請業者らとの関係が悪化し、債務者にも苦情が寄せられていたことは明らかである。
4 パートタイマー二名に対する暴行又はセクシャルハラスメント行為等
外注管理業務の補助職であったパートタイマー牛嶋由美子及び尾嵜洋子作成の申入書等(乙八、九、五〇、六六)、診断書(乙一〇)及び長田作成の伺い書(乙一一の二)によれば、債権者と同じ職場に配置されていた牛嶋及び尾嵜の二名が、債権者の言動や態度に不平不満を募らせ、平成七年一一月一六日付け申入書(乙八)で、債務者に対し、債権者又は両名の配置換えを申し入れたこと、その後牛嶋らと長田及び平野主任との間で、牛嶋らに対し平野から指示を出す等の改善が話し合われたものの状況が変わらず、平成八年一月になり、牛嶋は、精神的苦痛から上田クリニックの診察を受けたこと、牛嶋らは、その診断書(乙一〇)を添えて、同月一七日付けの申入書(乙九)で、再度債務者に対し配置転換を申し入れたこと、長田は、同月二二日付けの伺い書(乙一一の二)で、牛嶋の生産管理部購買グループへの配置換えを申請し、これが承認されたことを認めることができる。これによれば、債権者の牛嶋らに対する具体的行為が明らかではなく、債権者の暴行行為やセクシャルハラスメント行為の有無は不明であり、両名の不平不満が債権者の一方的な責任とは認められないものの、債権者と同じ職場のパートタイマー二名との関係が悪化し、両名が精神的苦痛を覚え、配置転換を申し入れたことは疑いがない。
債権者は、牛嶋の配置転換時期等を主張して右事実を否定しているが、債権者の陳述する内容は、牛嶋の配置転換時期が平成八年六月や平成七年一一月と変遷するなど極めて曖昧なもので、右関係各証拠に照らして信用することはできない。
5 本件配転命令拒否
(一) 本件配転命令の有効性
右4で認定した事実に加え、辞令(乙一六)、債務者代表取締役寺本英樹作成の報告書(乙三五)、工事請負契約書(乙三九の二)、現況写真(乙三九の三)、三和建設株式会社田中寿一作成の報告書(乙四〇)及び業務委託契約書等(乙四一の一ないし三)によれば、債務者は、平成八年一〇月九日ころ、製造効率のため株式会社センナン社製全自動帯電ブラシ加工機械の導入を決定し、右機械を本社工場一階南端ラングストン作業場に設置し、ラングストン作業場を外注遊管理課事務室のある本社一階に移設することにしたこと、同時に、下請人有限会社サンキョウ工業、中嶋及び小川の製造物品につき、債務者の指定する取引先に直接下請人から納入することにしたこと、これに伴い組織の改変を行い生産管理部外注管理課を廃止したこと、外注管理業務内容の変更に加え、右4で認定した専属運送会社、下請人及び同じ職場のパートタイマーらとの関係の悪化等債権者の外注管理業務上の問題点を考慮し、債権者に対し、外注管理業務から製造部スリッター担当への異動を命じたことが認められる。以上によれば、本件配転命令は合理性を有し有効なものと認められる。
債権者は、組合との事前協議を経ておらず本件配転命令は認められない、あるいは、本件配転命令は債権者の組合活動を嫌悪してなされた嫌がらせである旨主張するが、配転命令に事前協議を必要とする協定等は存在せず、また、本件配転命令によって債権者の勤務場所は同じ本社工場敷地内で三〇メートル程移動するのみであり債権者の組合活動に何ら支障を来すものではなく、本件配転命令の有効性を左右するものではない。
(二) 本件配転命令拒否
債権者が、本件配転命令を認めず、新就業場所に移動した後も同僚の手伝いであるとしてスリッター作業に従事する態度をとり続けたことは、債権者自身認めるところであるが、これに加え、平成八年一二月一日以降も債務者からの新就労場所での勤務を命じる業務命令に従わず従前の就業場所での勤務を続け、平成九年一月七日には、改造工事が予定され、退去を求められながら外注管理課事務室に在室し、その間工事が進められなかったこと(乙三九の一、四〇)は、債務者の正当な業務に対する妨害行為といわざるを得ない。さらに、前述した同年二月一八日債権者が田中に対してとった言動は、本件配転命令を拒否し、業務上の指揮命令に従わない意思を明らかにしたものと認められる(なお、この債権者の言動について、債務者は田中らに対する脅迫行為であると主張しているが、その言動の内容及びそれまでの経緯に照らし、右言動は、債務者に対する徹底的な抗議活動等を予想されるものではあるが、債権者が田中らの生命身体等に直接危害を加える趣旨のものとは認めがたい。)。以上の点からは、債権者は本件配転命令を拒否し、債務者の正当な業務上の指揮命令に違反したものと認めることができる。
債権者は、債権者が組合の指示に従ったにすぎない旨主張しているが、組合の要求が労働条件の改善のため正当なものであり、債務者が正当な理由なく団体交渉を拒否した等の事情が仮にあったとしても、右のような債権者の行為は、その主観面においても態様においても本件配転命令の拒否そのものであり、さらに債務者の正当な業務に対する妨害行為をも含むものであって、民事上の責任が免責される正当な争議行為又は組合活動と認めることはできず、他に債権者の右行為を正当なものと認めるだけの証拠はない。
二 本件懲戒解雇の有効性について
以上の本件懲戒解雇事由のうち、学歴詐称並びに専属運送会社、下請人及び職場パートタイマーに対する外注管理業務遂行上の非違行為ないし問題点が、それのみで正当な懲戒解雇事由となるかはともかく、従前の外注管理業務遂行上の非違行為ないし問題点を踏まえて行われた本件配転命令に対する債権者の明らかな拒否の意思及び業務上の指揮命令違反に加え、学歴詐称の点を理由として懲戒解雇をすることは、相当な理由があるものと認められる。
債権者は、本件解雇は弁明手続をとらず違法である旨主張するが、就業規則において弁明手続の規定が存在しない本件において、弁明手続をとることが必要不可欠とまでは解することはできず、本件解雇に手続上の違法は存在しない。
また、債権者は、本件配転命令拒否及び業務上の指揮命令違反は、本件解雇の懲戒事由ではなかった旨主張するが、本件解雇の通知書(甲二、三の一、四の一)には、「(4) (省略)異動を命じたにもかかわらずこれに従うことなく拒否し、(省略)当会社の発出する指揮命令への忠実服従を拒否した。同行為は(省略)就業規則第四四条(省略)一一号に該当する非違行為である。」との記載があり、右の点を懲戒解雇事由として通知していることは明らかである。
さらに、債権者は、本件解雇は、債務者が組合を嫌悪し、組合が不当労働行為救済申立てを行ったことに対する報復としてなされたもので無効である旨主張するところ、組合が右申立てをした後に、債務者が債権者の学歴について照会している事実は認められるものの、債務者は、既に平成九年一月二九日付け辞令(甲二二)で、本件配転命令に従わないときは相当な処分をすることを通告しているもので、不当労働行為救済申立てが本件解雇の主たる動機とは認められず、前述のとおり、本件解雇には相当な解雇事由があることに照らせば、本件解雇が、債務者が組合を嫌悪し組合活動を妨害する目的でなされたものとは認められない。
以上によれば、本件解雇は有効なものであると認めることができる。
(裁判官山田明)